深刻な人手不足の背景に苛酷な勤務環境で疲弊した看護師の増加
資格を持ちながら働いていない人は全国で約60万人いると言われています
現在、実際に働いている看護師さんは全国で約95万人(プラス准看36万8000人、助手19万4000人)いますが、資格を持ちながらも働いていない「潜在看護師」も60万人前後いると推定されています。
日本看護協会が行った調査結果によると、離職理由(複数回答可)で多かったのは、妊娠・出産(30.0%)、結婚(28.4%)、子育て(21.7%)と女性が95%を占めるこの職種ならではの理由が挙げられました。
離職理由 (自身の状況に関する事) | 割合(複数回答可) |
結婚 | 28.4% |
妊娠・出産 | 30.0% |
子育て | 21.7% |
自身の健康 | 16.4% |
家族の健康・介護 | 6.8% |
これらのライフイベントを経験した際に、なぜ働き続けることができないのかを尋ねた職場環境に関する調査では、離職理由として「夜勤の負担が大きい」「超過勤務が長い」「休暇が取れない」などが挙げられていました。
離職理由 (職場環境に関する事) | 割合(複数回答可) |
勤務時間が長い・超過勤務が多い | 21.9% |
夜勤の負担が大きい | 17.8% |
責任の大きさ・医療事故への不安 | 14.9% |
休暇が取れない | 14.4% |
入院設備のある病院に勤務する看護師にとって、夜勤は避けられません。家庭内の仕事は女性の仕事という観念がまだまだ強い日本では、育児や介護の関係で夜間に家を空けることができない女性が大勢います。
また、技術の進歩の早い近年の医療現場では、一旦職場を離れてブランクが生じてしまうと、いざ復職しようと思っても知識や技術の不安が壁になり復帰に躊躇してしまうケースも少なくありません。
日本看護協会の調査によると、病院勤務での平均超過勤務時間は月23時間半にのぼり、看護師の過労死基準を超えるとされる月60時間を超える人も4.3%もいました。心身ともに疲弊しきった状態で患者さんと接し、取り返しのつかない医療ミスを起こしてしまうのではないかという不安から離職する人もいます。
これらの問題に対処するため、国は、短時間正規雇用やワークシェアリングなどの多様な勤務形態を導入するための支援事業や潜在看護師を対象とした復職支援セミナーなど、様々な対策をスタートさせています。
また、新人看護師が入職後に技術力不足で自信を失い、早期離職するのを防ぐために、臨床研修制度も導入されました。これらの対策や各医療機関の取り組みにより、看護師の離職率は徐々に下がってきていますが、需給見通しでは2011年から2015年に掛けて最大で5万6千人の不足が見込まれています。
事態の好転には更なる対策が必要として、日本看護協会は、看護職員の労働環境の改善を求める要望書を厚生労働省に提出しました。要望書では、①看護師の夜勤・交代制勤務に関する実態調査を踏まえた指針を作成し、改善目標を明示する、②負担の大きい長時間連続勤務の是正につながる規制を施設基準などに記載すること―などを求めています。